『あぁ、鳥になりたいなぁ…』 僕が自然番組に携わり始めて間もない頃、野鳥の撮影中に発した言葉です。 よくありがちな「鳥になって空を飛べたらどんなに素晴らしいだろう!」なんていう 詩人的かつ高尚なモノでは一切ありません。 今回はこの言葉をスタッフ通信を通して、紐解くことにします。 番組では必ず『取材対象』があります。人だったり、物だったり、事象だったり… それをどう見せたら面白いか、魅力的に描けるかをディレクターは常に考えます。 そして構成台本を書いたり、アポを取ったり、許可を取ったりしてロケに望むのです。 しかし自然番組の制作では『取材対象』のアポは取れません。 それは相手が野生動物や自然の風景だからです。 この場所に行けば、この生き物に必ず会えるということはありませんし、 自分のイメージした素晴らしい風景が絶対に見られるという保証もありません。 (天候等も左右するので) もちろん、取材対象の生き物が撮影出来るように下調べもしますし、研究者などにも協力を仰ぎます。 それでも100%絶対はないのです。 |
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特に生き物(『鳥』の話なので野鳥で話を進めます)の撮影は時間がかかります。 一日中じっと待っていてもお目当ての野鳥が現れず、空振りで終わったり、 「今日もやっぱりダメかな…」と気を抜いていると 突如、木陰からパタパタと現れ、一瞬で姿を消し、悔しい思いをしたり… そんなことが何日も続くことがあります。 そこで『あぁ、鳥になりたいなぁ…』です。長い待ち時間、苦悩の中で出てきた言葉です。 もし自分が鳥だったら、いつ友達や家族がここへやってくるのかわかるし、 もしかしたら自分が呼び寄せることも出来るかもしれません。 「まぁ最悪、自分が出演すれば良いじゃん!」とか思うわけです。 ちょっと子供っぽい幼稚な考えなのかもしれませんが、精神的にそこまで追い詰められるのです。 その反面、長い待ち時間を経て撮影出来た時の喜びは、言葉では言い表せません。 飛び跳ねて喜びたいくらいですが、どんなに嬉しくても静かにじっと見守らなければなりません。 何かしたくなりますが、とにかくじっと我慢です。出来ることは瞬きをする間も惜しんでの生態を観察。 (撮影するのはカメラマン) 観察をしながら、彼らが何を考えて行動しているのか、想像を巡らせます。「なぜ今来たのか」 「なぜ、捕まえた青虫をすぐ食べないのか」「なぜ、仲間同士、喧嘩するのか」一々 「なんでだろう、どんな意味があるんだろう」と観察しながら日がな一日ずーっと考えます。 するとです!ある時から不思議と彼らの気持ちが少しずつわかってくる! わかった気になっているだけかもしれませんが… でも「あ、そろそろ飛ぶなぁ」とか「獲物に食いつくぞ!」とか高確率で予想が的中するんです。 これぞ!自然番組!この快感は自然番組でしか味わうことは出来ない! |
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『あぁ、鳥になりたいなぁ…』なれるわけがない! でも忍耐の先には『鳥に近づける瞬間』が必ず待っている! 僕が自然番組を続けている理由の一つです。 |