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鳥になりたい…2014年6月30日

『あぁ、鳥になりたいなぁ…』

僕が自然番組に携わり始めて間もない頃、野鳥の撮影中に発した言葉です。
よくありがちな「鳥になって空を飛べたらどんなに素晴らしいだろう!」なんていう
詩人的かつ高尚なモノでは一切ありません。
今回はこの言葉をスタッフ通信を通して、紐解くことにします。

番組では必ず『取材対象』があります。人だったり、物だったり、事象だったり…
それをどう見せたら面白いか、魅力的に描けるかをディレクターは常に考えます。
そして構成台本を書いたり、アポを取ったり、許可を取ったりしてロケに望むのです。

しかし自然番組の制作では『取材対象』のアポは取れません。
それは相手が野生動物や自然の風景だからです。
この場所に行けば、この生き物に必ず会えるということはありませんし、
自分のイメージした素晴らしい風景が絶対に見られるという保証もありません。
(天候等も左右するので)
もちろん、取材対象の生き物が撮影出来るように下調べもしますし、研究者などにも協力を仰ぎます。
それでも100%絶対はないのです。
一週間以上雨が続いた後の貴重な晴れ@知床

一週間以上雨が続いた後の貴重な晴れ@知床

雲が出来る様を撮影するためにひたすら待つ @屋久島

雲が出来る様を撮影するためにひたすら待つ
@屋久島

あああああ

あああああ

特に生き物(『鳥』の話なので野鳥で話を進めます)の撮影は時間がかかります。
一日中じっと待っていてもお目当ての野鳥が現れず、空振りで終わったり、
「今日もやっぱりダメかな…」と気を抜いていると
突如、木陰からパタパタと現れ、一瞬で姿を消し、悔しい思いをしたり…
そんなことが何日も続くことがあります。

そこで『あぁ、鳥になりたいなぁ…』です。長い待ち時間、苦悩の中で出てきた言葉です。
もし自分が鳥だったら、いつ友達や家族がここへやってくるのかわかるし、
もしかしたら自分が呼び寄せることも出来るかもしれません。
「まぁ最悪、自分が出演すれば良いじゃん!」とか思うわけです。
ちょっと子供っぽい幼稚な考えなのかもしれませんが、精神的にそこまで追い詰められるのです。

その反面、長い待ち時間を経て撮影出来た時の喜びは、言葉では言い表せません。
飛び跳ねて喜びたいくらいですが、どんなに嬉しくても静かにじっと見守らなければなりません。
何かしたくなりますが、とにかくじっと我慢です。出来ることは瞬きをする間も惜しんでの生態を観察。
(撮影するのはカメラマン)
観察をしながら、彼らが何を考えて行動しているのか、想像を巡らせます。「なぜ今来たのか」
「なぜ、捕まえた青虫をすぐ食べないのか」「なぜ、仲間同士、喧嘩するのか」一々
「なんでだろう、どんな意味があるんだろう」と観察しながら日がな一日ずーっと考えます。
するとです!ある時から不思議と彼らの気持ちが少しずつわかってくる!
わかった気になっているだけかもしれませんが…
でも「あ、そろそろ飛ぶなぁ」とか「獲物に食いつくぞ!」とか高確率で予想が的中するんです。

これぞ!自然番組!この快感は自然番組でしか味わうことは出来ない!
1ヶ月近く観察して撮影したオオタカの幼鳥 @茨城

1ヶ月近く観察して撮影したオオタカの幼鳥
@茨城

極寒の中、3日間粘って撮影したミヤマホオジロ @長野

極寒の中、3日間粘って撮影したミヤマホオジロ
@長野

あああああ

あああああ

『あぁ、鳥になりたいなぁ…』なれるわけがない!
でも忍耐の先には『鳥に近づける瞬間』が必ず待っている!

僕が自然番組を続けている理由の一つです。
贄田竜矢
お腹の周りの浮き輪が気になる35歳