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スタッフ通信

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「知る喜び」を撮影する2014年9月16日

皆さんは「勉強」してますか?
私は中学高校時代、宿題や受験勉強に追われる日々の中で、
「社会人になったら宿題も無いし、勉強しなくていいんだよな~…いいな~」
などと考えていました。まあ要は「勉強」が好きじゃなかったわけです。

そして社会人となり早10年以上。
キャリアだけ見ればディレクターとして「中堅」と言われるような人間になりました。
確かに学校を卒業すれば「宿題」や「受験勉強」からは解放されますが、
社会人を10数年続けて感じたことは、
「社会人は毎日が自分を試される試験のようなものだ」ということ。
もちろん学生時代の試験のようにテスト用紙を配られて、それに答えを書いていく、
という形ではありませんが。

そんな私が担当している番組に、「大学の窓」というものがあります。
「大学の窓」は、主に放送大学の学生向けに制作される15分の広報番組です。
放送大学とは、テレビやラジオ、インターネットで授業を視聴して学ぶ正規の大学。
通信制の大学なので名前を聞いた事がない人もいるかもしれませんが、
放送大学は全国に8万人以上の学生がいる、マンモス大学なのです。

「大学の窓」では、放送大学に関する情報の他に、
実際に学んでいる学生さんに取材することもあります。
そこで取材する学生さんが、ことごとく「勉強」好きなんです!
「勉強」というと少し語弊があるかもしれません、
「学ぶ」こと、「知らなかったことを知る」ことに大きな喜びを見出しているのです。
通信制の大学ということで、学生さんには、会社員や公務員、専業主婦など、
お仕事をしながら学んでいる方も多いのですが、彼らは普段仕事をしつつ、
早朝や夜、または休日に勉強しています。
番組に携わった当初は、「なんで社会人になってまで勉強するんだ?」と思ったものですが、
学生さん達の話を聞くうちに、「知らなかった事を知る、分かる」というのは、
何物にも代えがたい「喜び」なのだということが伝わってきました。

そんな学生の方々の「喜び」をいかに伝えるかが番組の肝になるわけですが、これが難しい。
ただ勉強している所を撮影するだけでは、そこにある「喜び」を切り取ることができません。
そこで、なぜ彼らが放送大学に入学しようと思ったか?
どんな瞬間に学びの楽しさを感じるか?などを聞いていきます。
さらに、面接授業(実際に講師の前で受ける対面型授業)にも出向いて、
積極的に講師の話を聞き、質問する彼らのひたむきな姿を撮影します。
放送大学の面接授業はバラエティに富んでいて、森の中や船の上など、
実際に現場で学ぶ体験型の授業などもあり、面白いのですが、
とにかくそこに来ている学生さんのやる気が凄いのです。
そうした彼らの「もっと知りたい!」という学習意欲に満ちた表情を狙います。


※写真について
a-01_R a-02_R 世界遺産・白神山地で行われた放送大学の面接授業。
カタクリの花や天然のブナなど、美しい自然の中で授業を受ける。

b-01_R b-02_R b-03_R 長崎の海で行われた洋上実習。船の操船や水質調査など、船や海に関する体験が盛りだくさん。
話題の軍艦島を間近で眺めることもできた。

c-01_R c-02_R c-03_R 放送大学の学生さんの地質研究調査に同行。道無き道を進む。
研究テーマであるザクロ石は赤紫の光沢が美しい。



そんな取材を続けているうちに、
「社会人、特にディレクターとして自分も毎日試されているわけだが、
その“試験”や、勉強を楽しむことが大切なんだ」ということを感じました。

ディレクターとしての能力を試される試験は様々な形でやってきます。
時には「いかにロケ現場でスムーズに、なおかつ面白い素材を撮ってこられるか」という試験だったり、
「短い編集期間の間に、いかに分かりやすく魅力的な編集で仕上げるか」という試験だったりします。
「簡潔で、なおかつ視聴者に伝わりやすいナレーションを書き上げる」という国語(?)試験や、
「タイトなロケスケジュールの中で、撮影項目と移動時間と食事の時間を効率よく配置するという
数学(?)試験など、自分の能力をあらゆる問題で試されるのです。
しかも学生時代と違って、こうした社会人の「試験」は明確な正解が無いという
厄介な特徴があります。はっきりいってシンドイ時もあります。
でも、だからこそ、放送大学の学生さんたちのように「学ぶ」ことを楽しんで、
「知らなかったことを知り、自分の能力を高めること」に喜びを見出すことが大切だし、
こうした毎日の試験を楽しむことが成長の秘訣なんだと思います。

社会人の“試験”に正解が無い以上、
ディレクターとして100点満点の仕事が出来る日は無いのでしょうが、
昨日より少しだけでも良い仕事ができるよう、日々楽しく精進していこうと思います。

丸本哲也
映画好きディレクター。今年長男が生まれました。うれしい。 写真は、歯が生えてきたところ。