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「プレシャス・ブルー」への道のり2014年8月25日

最近、つくづく身にしみたことがあります。
― 紙1枚が人生を変えることがある ―
婚姻届?マイホーム契約書?定期預金申込み用紙?どれもそれなりに私の人生を変えそうですが、、、
答えは、番組の提案書です。そんな大げさなと思われるかもしれませんが、
提案を出したディレクター本人だけでなく、出演者、多くのスタッフを巻き込み、
ときにその人生を左右し、関わった人間を未知の世界に連れて行く力がある魔法のような紙です。

テレビ番組の提案書(NHKの場合)は、画像なしの文字ベース。
タイトル、テーマ、構成案やラインアップを書くA4の用紙1枚です。
この1枚の紙から全ての番組はスタートします。私の人生を変えた一つの提案。
その採択が決まったのは今から半年前でした。
「プレシャス・ブルー~カリブ海 クジラの親子と出会う旅」、
フリーダイバーの二木あいさんが素潜りでクジラと交流し、
素顔の撮影に挑む日々を追ったドキュメンタリーです。
(クジラと挨拶をする二木さん)

(クジラと挨拶をする二木さん)

提案採択まで半年。番組完成まで1年。道のりは長かったですが、その分思い入れの強い番組になりました。
海とのつながりを映像で表現する二木さんの世界観に惚れ込んで様々な枠で何度も提案を書くものの不採択続き。
ラストチャンスとして夏の大型番組の公募の枠(数千倍の競争率といわれる)に出したものの音沙汰がなく、
もうダメかなと思っていたときの突然の朗報でした。
それからは提案書の修正や画像資料作成、ロケ地選定、取材、許可申請、長期ロケ、編集、ポスプロと
怒濤のような日々を送りました。
(二木さん撮影  素潜りだからこそ撮れる大迫力の素顔)

(二木さん撮影 
 素潜りだからこそ撮れる大迫力の素顔)

実は私は野生動物のロケ経験がなく、まったくの未知の領域。
初めて大海原でクジラを発見したときは純粋に地球ってすごい!と感激してしまいました。
そして番組をご覧になった方はご存じと思いますが、ラストに奇跡のような出来事が起きます。
ここだけの話ですが、その光景を前に私は提案不採択の日々、慣れない野生動物ロケ、
襲いかかるトラブル、クジラと会えない日々などを走馬燈のように思いだし、
二木さんがクジラと泳ぐ姿を船の上から見ながら涙が止まらなくなりました。
本当はロケ中なのでディレクターは客観的な立場でいないといけないのですが、
国境や立場を超えてみんなの思いが一つになり船全体が感動の渦につつまれていました。
(ホテルの部屋の窓からみた夕日)

(ホテルの部屋の窓からみた夕日)

1枚の提案用紙からスタートした番組が様々な人の力を借り、思いを乗せて放送される。
そんなプレシャスな経験ができる1枚の紙。私は今また新たな提案を書き始めています。
ハシグチ エリカ
ディレクター